町の奥に鉄鋼会社が実験的に造った建物があって、ここで毎年、今頃の季節にチェンバロ、ヒストリカル・ハープの古楽器奏者、西山まりえのチャリティーコンサートが開かれる。
こじんまりした会場で、こんな一流の名手の演奏を間近に聴けるとは、なんという至福だろう。外からは風にさわぐ木々の葉ずれの音や鳥の鳴き声も聞こえてくる。 ☞
今年はバロック・ハープ演奏で、1600年前後のナポリの音楽家たちの曲。
マイオーネとかトラバーチという音楽家は初めて聴く。明るく・激しく・優美に心地よい四声・五声が絡み合う。
そして、かの異端の貴族カルロ・ジェズアルドが唯一作曲したという鍵盤曲。ジェズアルドらしい錯乱しながらも甘美な半音階。
それにつけてもハーブ奏者の手さばきの美しさ。右手は細やかに躍動感あるステップを刻み、左手はゆったりと優雅に舞う。手の動きを見ているだけで陶然としてしまう。
バロック・ハープやナポリの当時の音楽事情についての、西山まりえさんの話も洒脱で楽しい。
このうえなく贅沢で幸福な初夏の午後。