奥井美紀という歌人が46~42年ほど前に上梓した3冊に、近作を合わせて改めて編まれた「地に湧く泉」という歌集を読む。驚愕。いまや殆ど知られていない人だろうが、こんなうたがあったとは!
母よいまあへがでわれを身ごもれな月かげあをく雪明りする
きらきらとまぐはふ父母はなげきなりわれを結びし雪の夜のごと ☞
生まれきて乳房恥(やさ)しくさんさんと花ふぶき舞ふこゑもなかりき
たまひても地はやすらはず泉みよゆゑしれぬ亀裂わきいづる見よ
いのちかへり来(こ)ゑまふ虚空をつつみてないのちかへり来こもり立ちてな
はるかぜは小鳥おまへね春風は小鳥おまへねこもれ陽うたふ
本はきわめてシンプルな装幀で、おそらく自費出版だろう。天、地、小口が裁断されていないので、地が2葉つながったままだ。そのためペーパーナイフでこれを切っていかなければならない。
経費の節約というより、ぱらぱらとページを流し読みされたくない、という思いもあったのではなかろうか。
また、元歌集からだろうが、すべての漢字にルビが振られている。この異様とさえいえる独特の韻律をまず感受してくれという意図ではなかったか。
近来、これほど心をわしづかみにされて脳裏から消え去ることのない歌集はなかった。(一首々々ごとならともかく、まるごと一冊の歌集として。)
あまりにも強烈な印象なので、少しまとまった文章を書いてしまった。
☛ 私は〈歌の中の私〉を制御できなかった ― 奥井美紀歌集「地に湧く泉」