我が家の庭に転がり込んできた蝸牛が居候になって、ひと月ほどたった。
童:おはよう。どう、だいぶ落ち着いたかな?
蝸:む、手厚きもてなし、畏れ入る。礼を言うぞ。
童:へ? …ん…ま…、いいや… で、君、名前はなんていうの?
蝸:されば、拙者、村雨晨之介と申す。 ☞
童:はぁ … あ…、そう…。
蝸:拙者、村雨晨之介と申す。
童:うん、わかったよ。
蝸:村雨…
童:わかったってば。
蝸:お主、伊賀の影丸を知らぬのか。
童:読んだけど。
蝸:“闇一族の巻”というのがあったであろう。
童:うん、…ああ、あれ、そういえば村雨兄弟ってのが出てきたねえ。
蝸:さよう。拙者、その6男よ。
童:えー、だって、あれ江戸時代だぜ。
蝸:うたて者よな。まんがの世界は時空を超えると知らぬか。“火の鳥”を見よ。“ポーの一族”を見よ。
童:でも、6男なんて一度も出てこなかったぜ。
晨:うむ…、あの頃は、幼くして未熟だったからな。
童:ふーん。じゃ、生き残った兄弟は今どうしてるの?
晨:次男の十郎太は、薬草に最も精通しておったからの、薬剤師の資格を取って、今はマツモトキヨシの薬師台店の支店長をしておるぞ。
童:へぇ…。5男の源太郎は?
晨:奴はたいしたものよ。縄術つかいだったからの、特技を生かして、今は縄師じゃ。
童:縄師?
晨:SMの世界のあれよ。緊縛師ともいうな。奴はイケメンだしな、源太郎様に縛られたいという女だけじゃない、男のファンも引きも切らぬそうじゃ。
童:おやおや。…じゃ、影丸は?
晨:影丸はな、苦労しておる。昨今は武具も進歩したからの。奴の‘木の葉隠れの術’ももはや時代遅れじゃ。大量にためこんだ葉っぱの処分にも困ってな。思いついたのが芋を焼くことじゃ。
童:芋?
晨:今はなんでも北陸の方で焼き芋の屋台を引いておると風の便りに聞くぞ。
童:… そんな…。
晨:じゃが、影丸も一世を風靡した男よ。このままでは終われん。得意の‘木の葉火輪’で一気に焼き芋を作るというスペクタクルを計画しておるらしい。
童:ほー。
晨:ところがな、消防法がネックでな、なかなか思い通りにならんようじゃ。
童:ふーん。で、君も村雨兄弟だから紫陽花みたいな毒のある葉も平気なのかい。
晨:いや…それが…よく、紫陽花に蝸牛なんぞというが、実は蝸牛も紫陽花の葉はよう食わん。
童:へー、…でも、君も忍者なら、なんかの忍術はできるんだよね、当然。
晨:されば、4男 霧丸が得意とした‘ナナフシ’の術。…どうじゃ。
童:うーん。まあ、そのていどじゃ、うちのヤモリのビスマルクにはすぐ見っかっちゃうと思うね。
晨:むむ…。しからば‘木の葉隠れ’じゃ。さらば!
童:それって、ぜったい違うと思う。だいいち全然消えてないし。…あれ?もうなにもいわなくなっちゃったよ。