
激しいラリーのすえ、14本目のアザレンカのショットがネットにかかって決着がつくと、少しだけ笑って空を仰ぎ、大きく息を吐いた。それから駆け寄って対戦相手とラケットを軽く合わせて挨拶し、心底疲れたという表情でラケットをベンチに置いてからコートに歩いていき静かに仰向けに横たわる。勝利を噛みしめるという姿ではなかった。ただ、じっと空を見つめていた。 ☞

それでなくても重圧のかかるグランドスラムの決勝であるのに、Black Lives Matterのはっきりとした意思表示をしつづけることは、やはり相当な重圧になったのではないか。
横たわって夜空を見上げながら、彼女はなにを思っただろう。
テニスとは別の視点から多くの人が思いを託して応援の言葉も送ってくれる。同時にやはり少なからぬ人が誹謗中傷を投げつけ、プレイとは関係なく自分か敗れれば快哉を叫んだりもするだろう。どちらにせよ、もう、自分はただ自分のテニスにだけ打ち込んでしていればよいという立場ではなくなってしまった…。でもそれはわかっていたこと。“私はアスリートである前に一人の黒人の女性です。”そう言って自らそれを引き受けたのだ。