パン屋からの帰り道の朝、お寺に寄る。
なんと、咲いているのは…あやめ?
ふつう、あやめは5~6月だろう。
でもちょっと違うような気も。
帰って調べてみると、どうやらジャーマンアイリス(ドイツあやめ)という種類らしい。早ければ4月にも開花するとか。 ☞
あやめと花菖蒲、かきつばたの区別はつきにくいけど、ここに縞目のような模様が入るのがあやめですね。‘文目’の名の所以なり。ドイツあやめでもその特徴は変わらないみたい。
レインボーフラワーともいわれて、黄色やピンクのバリエーションもある。
青日傘さして白昼の苑にゐし女あやめとなりて出で来ず
小島ゆかり
でもこの花はドイツ人だから、日本のあやめよりやっぱり派手でグラマラスだよね。
アイリスと美し名をもつおほいなる風の進路は茫洋とみゆ
葛原妙子
小ぶりながら枝垂桜はまだ盛り。
ソメイヨシノはもうおしまい。
桜の古木というのも趣がありますね。
さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり
馬場あき子
小島ゆかりのうたを引いたので、最近ふと感じたことを。
そんなにいい子でなくていいからそのままでいいからおまへのままがいいから
無理に背伸びしようとして失敗し自暴自棄になっている子供に語りかけるようなうた。
小島のよく知られたうただけれど、一気に詠みくだしたように見えて実は絶妙の‘技’が込められている。
このうたはきちんと定型になっているのだ。
そんなにいい/子でなくていい/からそのままで/いいからおまへの/ままがいいから
句跨りの技法ということだけなら、特にいうほどのことではないが、あらためてこの韻律に即して味わうと、このうたにつかわれた4つの‘いい’という語のニュアンスが微妙に変化していくのが感じられる。
すなわち、最初と2番目の‘いい’は、各句の末にあって相手の目をしっかり見つめながら‘なくていい’と断定的に言い聞かせる強い語調の‘いい’だ。それが3番目では、句の頭にあって説得のニュアンスを保ちながらもやわらかく肯定的な語調に変わる。そして最後の‘いい’になると、句のなかに置かれてテンポも緩やかになり、やさしく抱きしめるような物言いへと着地していく。
小島ゆかりはこのうたをこんな計算の上でつくったのだろうか。
そうではあるまい。あるいはなんどか推敲は重ねたかもしれないが、こころの息遣いを素直になぞってそれがそのままこのすがたに収まったのだろう。なんとこの歌人の天賦の才を思い知らされるようなうたではないか。