心を込めた料理は幸せな気持ちにさせてくれる。「花と奥たん」の一話一話にはそんな料理が描かれる。
だが、その幸せはとてつもない不幸と背中合わせだ。
帰宅する‘旦那たん’のために毎日晩ゴハンをつくって待つ‘奥たん’。だが旦那たんが勤めに出た東京は、巨大な花が咲いて壊滅状態。生還者はいない。 ☞
それでも奥たんは‘残され地区(避難勧告地区)’で、日々けなげに料理作りにいそしむのだ。
「花と奥たん」の第1巻を読んだのは10年以上前だった。第1巻というからには、続巻が当然にあるのだろうと思ったら、出ていない。ゆるさと緊迫感の絶妙のバランス。こんなにおもしろい作品なのに…と残念に思いながらそれきりになっていた。
つい最近、第5巻まで出て完結しているのを見つけたのは、やはりコロナ禍のもとでこの作品が思い起こされたからだ。飛び飛びに連載されていた第1-2巻の途中には東日本大震災の原発事故が起こった。それから第3巻分以降が再開されるまでには、5年の中断を要している。新型コロナが出現したのはシリーズの完結直後だ。はからずもこれらの災厄を予言するかのような今日的なテーマの作品となった。
丁寧な作画・ストーリー展開はもとより、色遣い、タイトル等を浮き押しした装幀・造本も素晴らしい第1-2巻。それに比べると、急ピッチで進められて作画も淡白になったように見える第3巻以降には正直なところ不満が残る。(カラー刷りがなくなった紙版ではなく電子版なら印象は変わるかもしれないが。)
しかし、ストーリーは周到に計画されている。第5巻の、否応なしに終局へと向かう展開は見事だ。(当初の時期に描かれていた第0話と最終の2話を組み合わせて第5巻とした構成も心憎い。)
切ない、豊かで、忘れがたく心に残る物語。
☛ “奥たんは旦那たんが帰ってくると本当に思っていたのだろうか?”
* 感想を書いてみました。ネタバレありありです。