6/7の井上尚弥とノニト・ドネアの再びの対戦。
試合後、完膚なきまでに叩きのめしたドネアのもとに歩み寄り、井上は敬意と謝意を伝えるかのようにその胸にグローブをあてる。
ドネアがはっきり日本語で‘ありがとう’と言い‘コングラチュレーション’と勝者を称えるのが聞こえる。 ☞
リスペクトしあう者どうしの抱擁。
3年前にさかのぼる、各団体のチャンピオンベルトをかけたWBSSトーナメントの準決勝。
井上が、IBFチャンピオン E.ロドリゲスを僅か2RでKOした試合後、やはりすでに準決勝を勝ち上がっていたドネアが、観客席からリングに上がって井上と対面する。
6か月後に決勝で相まみえるのに、あたかも旧来の親友と再会したかのようなお互いの表情。いや、フライ級からフェザー級まで5階級を制覇してきたドネアは井上にとって憧れの存在で、ドネアに向ける眼差しはアイドル、どころかまるで恋人を見つめるかのようだ。
そして'19年11月、ふたつのチャンピオンベルトをかけたトーナメント決勝。
ボクシング史上に語り継がれるに違いないこの激闘について、いまさら私ごときが喋々する必要もあるまい。技術の粋と一瞬の緩みもない気力がぶつかりあう超高次元のクリーン・ファイト。
接近戦の絡み合いからスリップダウンしたドネアに、戦闘モードのはずの井上が、失礼しましたというかのように礼儀正しく深々と頭を下げる(7R)。
これまでのキャリアで傷らしい傷を負うことのまったくなかった井上が(眼窩底と鼻は骨折していたという)、ふと楽しそうな、嬉しそうな、充実感に満ちた表情を見せる(10R終了後)。
12R終了のゴングが鳴る。闘いを終えたとたんに表情も和らいで抱き合う。
さっきまで、あんな凄絶な殴り合いをしていたのに…。 スケボーやテニスの選手がお互いの健闘を讃えあうのと同じなんだろうか。同じなんだろうな… しかし…
そして今回。ドネアの果敢なファイトを粉砕する井上尚弥の異次元のボクシング。
四方の観客に丁寧にお辞儀をして退場する敗者を讃える‘ドネアコール’も ―。
この試合ののち、井上がミニマム級からヘビー級までの世界の全選手のなかで最高のボクサー(パウンド・フォー・パウンド1位)に選出されたのは周知のとおり。凄い、凄すぎる…!!