萩の花をちゃんと見てないなあと、ふと思った。
幸いテニスコートへの道からさほど外れていないところに市営の“万葉植物園”がある。萩は万葉集で梅を凌いでもっとも多く歌われている花だ。ちょうど咲いている時季だろう。 ☞
アーチ状にした支柱に萩が絡む。萩ってマメ科なんだな。マメだから草ではなく木です。‘やまはぎ’との表示。たくましく旺盛な野生。
表示版に紹介されていた万葉の歌は ―
秋風は冷(すず)しくなりぬ 馬竝(な)めて
いざ野に行かな 萩の花見に
(2103 作者不詳)
万葉ではないけれど、萩の歌で真っ先に思いうかぶのは、やはり実朝の
萩の花くれぐれまでもありつるが月出でて見るになきがはかなさ
実朝が詠んだのはなぜか紅色ではなく白い萩だったような気がする。
吾亦紅(われもこう)。
恥ずかしながら、実物をこれと意識して見るのは初めて。この実みたいのが花らしい。しかもかろうじて花らしく見えるのは萼で花弁は退化しているとか。
名前は雅なのに実物は地味。万葉には詠われていない。源氏でも『匂宮』に“ものげなき(見栄えのしない)われもかう”とあるのみ。(こんな花を愛でる匂宮の心ばえを讃えているんですけどね。)
若山牧水に ―
吾木香すすきかるかや秋草のさびしききはみ君におくらむ (「別離」)
人妻との恋を詠ったものだとか。
また、馬場あき子に ―
大江山桔梗刈萱吾亦紅 君がわか死にわれを老いしむ (「桜花伝承」)
馬酔木(あせび・あしび)もあった。
開花は春先だが、実くらい見られないかなと期待したけれど…。
万葉に馬酔木の歌は数少ない。でも大伯皇女のこの絶唱 ―
磯のうへに生ふる馬酔木を手折らめど
見すべき君がありと言はなくに (166)
切ない歌だなあ…