
明治神宮外苑の再開発で樹木が伐られるという報道は聞いていたけれど、さて、行って見たことがあったかしらん。
そこで、所用がてら寄ってみることにした。
4列の美事な銀杏並木。え、これを伐っちゃうの?!
―― 帰宅して調べてみれば、この銀杏並木には手がつけられないとか。なんだ。しかし、事はそんな簡単なはなしではなさそうだ。 ☞
銀杏並木が伐られてしまうのはけしからん、と早とちりしている人は少なくなさそうだ。言い訳するなら、それはマスコミにも責任がある。現に先日(1/28)の朝日新聞の記事では‘今後再開発が進むエリア’として銀杏並木も含めた地図を載せている。うっかりか、意図的か。またテレビでも“銀杏並木は伐られない”と一応は触れながらも外苑の写真に銀杏並木を表示したりしていた(TBS Nスタ '23.9/8 など)。
再開発は神宮球場や秩父宮ラグビー場の老朽化対策、超高層ビルや球場の収益性などを求めて実施されるとか。外苑は内苑とともに主に明治神宮の所有地で、この維持管理に多大な費用を要するという事情もあるようだ。だが、宗教法人なので、国や都の公費補助はありえない。それで三井不動産や伊藤忠などと組むことになったらしい。
伐られるのは神宮第二球場脇の‘森’をはじめとするあちこちの樹々。すでに昨年秋から伐採は始まっている。では、その‘森’とはいかなるものか。
すでにフェンスで囲われているので、グーグルマップの航空写真で見る(ピンクの矢印のところ)。え、これが‘森’? というのが正直な印象。神宮内苑、新宿御苑、赤坂御用地が近接するせいもあって、ますますその感を強くしてしまう。
もちろん狭小だから価値がないわけはなくて、外苑の樹々は、大正末に全国・海外からの献金300万円、献木3000本、奉仕青年団延10万人によって造営されたのだという。その思いがこもった‘森’を可惜つぶしてしまうのか。― というのは反対する人たちの心情としてもありそうだ。
しかし、こんな指摘もある。この‘森’の現在の植生はほとんどカシとシイであり、これらはもはや元々の献木されたものではなかろう。里山などがそうであるように、鳥が糞とともに種を落として根づき当初の樹に取って代わったものだ。そもそもが人工林なので人の手が入るのは必要だし当然のことである…。
明治神宮の事情も分からないではないし、老朽化しつつある施設をいつまでも放っておくわけにもいくまい。
坂本龍一も“単に無理やりなんでも反対だということではなく、いろいろな事情があることはわかっているけれど、それでもひとつずつ解決してなにか別の方法が考えられるのではないか、というはなしがしたいのです”と述べていたという。
問題をこじらせているのは、いつの間にか外堀が埋められていて知らされた時にはもう後戻りできないかのような段階になっている再開発の常道的な遣り口だろう。桑田佳祐も歌っているではないか(「Relay~杜の詩」)。
〽 いつもいつも思ってた 知らないうちに決まってる
外苑は明治神宮の私有地なんだからどうしようと勝手だという乱暴な意見(神宮・事業者の所見ではない、念のため)もあるようだが、そもそもこのエリアは公益性を条件に明治神宮に払下げられたのではなかったか。
様々な提言・意見・要請を行ってきたイコモスも明治神宮の事情と再開発自体の必要性は理解しているようで*、2年前には『樹木の伐採を回避し 「近代日本の名作・神宮外苑」を再生する提案』という具体的な計画案を提示している。(ラグビー場はその場で改修。神宮球場は第二の場所に移転。周遊車道を歩道に。樹木はほとんど現存のまま等々。) 超高層ビルについてはペンディングで収益性の問題が残ることになるから、その実現のハードルは高いかもしれないけれど、せめてこのレベルの議論が公の場でなされるべきなのではないか。一見、なかなか魅力的なプランとも思えるのだが。
* 公園の維持管理費用は、公園の種別や場所により異なりますが、表-1は、全国の公園の㎡当た りの年間維持管理費です。全国平均では202円ですが、東京23区では799円となっています。 仮に、この数字を神宮内苑・外苑の面積に乗じますと、10億4670万円という巨額の費用となり ます。
-表省略-
また、近年ナラ枯れが蔓延しており深刻な事態となっています。ナラ枯れとは、ナラ・カシ類 がカシノナガキクイムシという小さな甲虫により集団枯損をするもので、神宮内苑にも被害が及 んでいます。森や緑地を維持管理していくことは地道で困難な仕事であり、多額の費用を要する ことを、私たちは深く認識する必要があります。明治神宮におかれましては、こうした費用の相 当の部分を、神宮球場の収益から充当し、緑地だけではなく重要文化財である絵画館の維持管理 費に充てておられると伺っております。 このため、老朽化し耐震補強の必要な神宮球場を再建することは必須の課題であり、おそらく、 今回、事業者の一人として明治神宮が加わっておられることは苦渋の選択ではなかったかと拝察 いたします。 神宮内外苑は、公共性の高い緑地であり、私たちは多くの恩恵を被っております。その持続的 維持に向けた財源を、社会が共に考えることが今回の問題の基本にあると思われます。
日本イコモス(石川幹子小委員会主査 -東大名誉教授) .
「樹木の伐採を回避し 「近代日本の名作・神宮外苑」を再生する提案 」p29
銀杏並木を見た当日は、すっかりこれらの素晴らしい樹々が伐られてしまうのかと思い込んで、憮然としながら蕎麦でも食うかと表参道方面へ向かう。川上庵に。3時過ぎなのに満席ではないものの客はかなり入っている。
料理、酒もよいが、蕎麦が上々。こりゃわたくし的には最上位にランクするぞ。
気分もやや持ち直して帰途に。単純な奴だな、わたし。