七つ道具 ― これはいい!…かも?
その1 パーティングライン・マーカーと懸垂糸
その2 真弧
その3 左手用切出し
その4 色評価用蛍光灯
その5 へら
その6 眼鏡
その7 粉受け作業台とブロウワーブラシ
おまけ 歯科用石膏など
その1 パーティングライン・マーカー と 懸垂糸
こんな名前の製品があるわけではない。
正確なパーティングラインを引くことは、それからの作業、延いては仕上がりのうえで極めて重要である。
厚紙を折って垂直に立て、原型と接した点をつなげばパーティングラインになる、という手法は本城光太郎氏が著書や自身のホームページで紹介している。
本城氏の著書「はじめてつくるビスクドール」では、接点に印を付けていき、それをつないで線にする、というやり方、ホームページではもっと手軽に、厚紙の折山にパステルやコンテ等を塗り、これを原型にこすりつけてマーキングしていく、という方法が解説されている。
☛ http://doll-club.com/howto
折った厚紙を用いる方法は、目視に頼るよりはるかに正確なのだが、強いて難点を挙げれば、柔らかい紙に原型が食い込んで接点は点以上に広がってしまう。折山にパステル等を塗って引いたラインは幅のある帯状になる。
原型がほぼ正円のカーブならその帯の中央が正確なパーティングラインだとみなせるが、それがいびつなカーブでは、帯の中心(緑の星)はカーブの頂点(正しいライン-赤い星)からずれてしまう。
極力ずれのない細いラインを引くためには、原型と接する折山部分が硬いほどよい。
そこで、折山にホルダー式ペンシルで使う芯をセロテープで固定してみる。
紙のままよりシャープなラインが引けるのはもちろん、たびたびパステルを塗りなおす必要もない。
取り付ける芯は1本だとずれやすいので、3本束ねると安定する。
その2 真弧(まこ)
これも本城光太郎氏の教室で教えてもらった。
だが、これがどういう由来のものだったかもはや判然とせず、ケースに書かれた‘profile master’をネットで検索してもまったくヒットしない。
苦心の末、やっとこれが‘真弧’というものであることをつきとめた。
もちろん、人形制作のためのものではなく、考古学で出土した土器などの形状を記録するためのものだそうだ。
一本一本がスライドする櫛状の器具で、物に押しつけるとその形を正確にトレースする。
製作中の原型が左右対称になっているかをチェックするのに役立てられる。
または、スポットライトを上からあてて、できた影を見る、というやり方も ―。
真弧を使うまでもないようだが、まあ、あれば楽しいかな。
最終的には、自分の目にたよるほかないのだけれど…。
* 作業していると非対称が気になってしまうが、完璧がベストなわけではない。マネキン制作の第一人者の欠田誠はこう述べている。『顔の形がシンメトリーになるよう修正するにしたがって表情が消えて、つまらない顔になっていく。マネキンで大切なのは美しい顔よりも魅力のある顔だが、人の作品を見る時にも、つい形のいびつさが先に気になってしまう。(「マネキン 美しい人体の物語」)』
その3 左手用切出し
持ち手側から見ると、刃は図のように付いている。
刃の左側(a)は真下に進もうとするのに、右側(b)は抵抗があるので左に逃れようとする。
そのため刃は矢印の方向に曲がっていく。
従って、表面を削ろうとするときは、bを下にして右から左、奥から手前に刃を進めなければならない(右利きの場合)。
これを逆にbを上にすると刃がどんどん中に食い込んでしまう。
その4 色評価用蛍光灯
照明でペイントの色の見え方は変わる。
LEDなどでは、顔が青白く見えたり黒ずんだりする傾向があるようだ。
そこで「色評価用」蛍光灯を使う。自然光(太陽光)にかなり近くなる。
「平均演色評価数」というのが、太陽光はRa100なのに対し、これは99なんだとか。
でも、そもそもふだん人形を置く部屋の照明がLEDだったら、あまり意味がないのかも?
最近は高演色のLEDも開発されているそうだけど…。
その5 へら
へらは既製品を削って作り直す。
整える形に応じて、へらもそれに合ったものがほしくなってくる。
材質はつげに限る。(木目-きめ-がつんでいる。= 木目の早材(薄・柔)と晩材(濃・堅)部分の差がないので木肌が滑らか。櫛に使われる最大の理由ですね。)
その6 眼鏡
眼鏡は3つ。普段づかいのもの、それより1度、2度、弱いもの。作業の細かさに応じて使い分ける。
老眼鏡を使い分けるようなものか。
でも、ど近眼で便利なのは、裸眼で至近距離の作業ができること。ルーペは不要。
まあ、近眼で得したのはそのくらいだけど。
その7 粉受け作業台とブロウワーブラシ
“粉受け作業台”の正式な名はわからないが、れっきとした人形制作用の製品。
本城教室の常備品で、同じものを調達してもらった。
浅い箱に金網が浮かせてあって、原型のヤスリがけやグリーンウェアの磨きで出る粉を下に受ける。
粉が原型にまとわりついてくるのは結構煩わしいもので、これは思った以上に便利。
しかし、原型やグリーンウェアに金網の跡がついてしまうことがあるので、果物や瓶を保護するネットを上にはることにした。
ブロウワーブラシは、本来カメラのレンズの埃を掃うためのもので、ブラシを外して使うこともできる。
パソコンのキーボードの埃を吹き飛ばすものとして百均などで売っているかも。
粉は筆などではなかなか掃いきれないので意外に便利。
番外
* 画像に掲げた‘Araldite’は、含有成分が'18年に劇物指定となったため、販売終了となった。
エポキシ系接着剤は、セメダインやコニシなどから硬化時間の異なる各種が販売されている。百均でも。
ロンパリ? 寄り眼? 上目遣い? 伏し目? ちゃんと正面見てる?
任意のポジションを調整するのにすごく便利。
位置が決まったら、エポキシ樹脂系の接着剤orパテで固定。Blu-Tackは簡単に剥がせる。
(‘Eye Setting Wax’なるものもあるけど、あれよりはるかに便利。)
歯科用石膏。
なんと、混水比20%。
普通の石膏、A級が71~76%、特級で61~65%だから、かなりの違いだ。だから固まると、すごく硬くて重い。
義歯や詰め物の型を取るためのものなので、シビアな精度が求められる作業に使われる。
少しでも泡が入ってはいけない。泡を抜くための専用のバイブレーターや真空攪拌機などというものまである。
この石膏を完璧に使いこなすにはある程度の熟練が必要で、作業の勘所を指南する動画が何本もYouTubeに公開されているほどだ。
義歯づくりなみの精度にこだわらなければ、作業としてはふつうの石膏とおなじようなプロセスで型取りはできる。
鋳込みもやや時間がかかるが、同じようにできる。
でもあえてこの石膏を使わなければならない必然性はないかな?
焼石膏(半水石膏CaSO4・1/2H2O)は水を加えると化学反応(水和反応)して二水石膏(CaSO4・2H2O)になって固まる。
化学反応だから、そのための必要な水の量はどの焼石膏でも一定である。化学反応以外の余った水は、固まった石膏のなかに(物理的に)留まる。(化学反応に要する以上の水を加えるのは、全体に均等な水をいきわたらせるため。ぎりぎりの水だと、早く固まりかけた部分が余分な水を抱え込んでしまい、まだ固まっていない部分に必要な水がいきわたらなくなる。)
すなわち混水比の大きい石膏ほど、固まった後、より多くの余分な水を含んだ状態になる。
その後、石膏の内部に留まっていた水は蒸発し、石膏は乾燥する。水が抜けたあとはこまかな気泡となって残る。(構造的にはスポンジのような状態。)
つまり、混水比が大きく、より多くの水分を抱えていた石膏ほど、多くの気泡ができる。気泡が多ければ、当然強度は弱くなる。A級より特級が堅固である理屈である。(ただ、気泡が多い分、体積は増え軽くなる。また、鋳込みの際、スリップの水分をより早く吸収するというメリットが生じるかもしれない。それほど顕著とは思えないけれど。)
正しい混水比以上の水を加えてしまうと、本来の強度も得られなくなってしまうわけである。
* 大きな人形の石膏型となると、その重さも馬鹿にできない。そこで原型を直接覆う第一層は特級の適正混水比で、それ以降には混水比を過大にした石膏(特級~B級)を使う、という手もありそうだ。それなりの軽減にはなるだろう。
参考にするのは、ほとんどが部分的なパーツ。
目、鼻、口のようなはっきりした部位もあるが、目尻から側頭部にかけての膨らみ、とか、口角から頬への曲面、といった名付けようのない部分を見る。
顔立ちそのものを写そうとすることはない。各部分を頑張ってコピーしても、結局は全体的なイメージは微妙に、そしてかなり違ってしまう。
無条件に惹かれる面立ちはあっても、それはあくまでも記憶の底に刷り込まれて、知らぬ間に反映されるべきものだ。