わこ梨子 歌寄せ

 

 

2007年

 わこ 5-6

  パパのいすげつかすいもくきんようびからっぽたいくつどようびはまだ ˑ

  おひさまがギラギラわたしとママてらすきのうのぶんもおとといのぶんも ˑ 

  くるりんとおおきなめをしたしかたちがわたしをみてるわたしもみてる ˑ

 梨子 8-9(小2-3)

  五・七・五くつで数えて立ち止まるママとこのごろたん歌でさん歩 ˑ

  あおむけで日曜日の空見ていたら雲も私をのんびり見てる ˑ

 

 

2008年

 わこ 6-7(幼-小1)

  まな板は夏いそがしいなすトマトきゅうりスイカを次々のせる ˑ

 梨子 9-10(小3-4)

  妹+(たす)私の指=(で)20本けんばんの上バッハをおどる ˑ

 

 

2009年

 わこ 7-8(小1-2)

  おふとんでママとしていたしりとりに夜が入ってきてねむくなる ˑ

 梨子 10-11(小4-5)

  友達とケンカの妹赤い目で五年二組を訪ねてきたよ ˑ

 

 

2010年

 わこ 8-9(小2-3)

  雨の子は円を書くのが得意だねポツポツポツリ学校の池

  友だちの右かた私の左かたぬれて笑って一本のかさ ˑ

  きのう晴れ今日はどしゃぶり明日晴れ夏は迷って行ったり来たり ˑ

  ねえちゃんは今日から合宿メロンパン2こ食べちゃったなのにさみしい

  つな引きで戦う相手は赤と青いなりずしガブリ男っぽくかむ ˑ

  運動会終わった次の日行ってみた全部夢だったようなグランド ˑ

  マンボウとひつじがチューする雲がいてそのすき間からひかる青空 ˑ

 梨子 11-12(小5-6)

  咲こうかなそれとも明日咲こうかな塾の帰りに桜の会話

  逃げ出して三日目の朝見つかったカメ吉聞かせて冒険日記

  ピアノ弾く妹が好き弾き終わりくるりふり向く笑った顔が

  泣き虫でけっこうがんこで甘えん坊はねる音符のような妹

  弁当の梨をシャリシャリ食べながら最後の運動会だねと言う ˑ

  一番に鼻のてっぺん朝トレの風が冷たい秋だと言った ˑ

  PTAのママとろう下ですれちがう私のママじゃないママみたい

 

 

2011年

 わこ 9-10(小3-4)

  ということはママになってもばあちゃんになってもひらがなわたしの名前

  きっさ店ママのコーヒー飲んでみた苦くて口がガ行になった

  ねえちゃんは着てみていいよと言ったけど見ているだけにしたセーラー服

  言いかけたごめんなさいに気づかずにママは怒ったすごく怒った

  玄関でクルッと回ってスカートをふわっとさせてねえちゃんお出かけ

  捨てゼリフ残し飛び出すねえちゃんはけれどもドアを優しく閉める

 梨子 12-13(小6-中1)

  決勝戦すずちゃん乗せてかけ回る私は今年右後ろ足 ˑ

  試着室鏡の中に私より先にセーラー服着た私

  妹の笑顔の寝顔かわいくて歯磨き中のパパまで呼んだ

  中学生日記みたいに制服を自然にふつうに今日からは着る ˑ

  泣きじゃくる妹をパパがそっと見る葉の陰のかたつむりみたいに

  汗よりも涙はゆっくり落ちてゆく閉会式が終わった砂に

  泣く基準あいまいになって無意識に泣かない方を選んでる私

 

 

2012年

 わこ 10-11(小4-5)

  すごい虹出てるよしかも二重だよ勉強してる場合じゃないよ

  ママが差す日傘の影にぴょんと入りそのまま影絵見ながら歩く

  母の日にパパが作ったタコ焼きはたまにタコ2コたまにタコなし

  青じそのおいしさに気づいた私こうして人は大人になるんだ

  風船のようにふくらむ図書室のカーテンの中風と二人きり *

  ねえちゃんの好きな人ってどんな人ナポリタン食べる横顔に聞く ˑ

  来年もこのワンピース着たいから私あんまり大きくなれない

  私にだって一人になりたい時があるそういうものかな11歳は ˑ

  明るくて優しい形のラ・フランス 匂いのする色ラ・フランス色 *

 梨子 13-14(中1-2)

  妹が「秘密は守るから」というウグイスみたいな真ん丸の目で

  きのうからインフルエンザの妹は喋らない「ママ」の他には何も

  お出かけの服の候補に妹は私のセーラー服も並べる

  ふわふわのものはなんでも抱きしめてほおずりをする妹のくせ

  「お前ゆでたまごに似てる」ゆでたまごゆでたまごってあのゆでたまご ˑ

  しゃぼん玉近づくように笑いあう「モモって呼んで」「リコって呼んで」

  今日のことママにどこまで話そうかうがいしながらまだ迷ってる

  突っ伏して泣いてる君に知らせたい夏が真夏に変ったことを ˑ

  心配性のママはそうじや洗濯や料理みたいに心配をする ˑ

 

 

2013年

 わこ 11-12(小5-6)

  絶対に怒るはずだったねえちゃんは泣いてしまった私のウソに ˑ

  チンドン屋さんしゃがんでコーラ飲んだ後また鳴らし出す桜の下で

  6年になってすぐ行く美容院「大人っぽくしてください」と言う ˑ

  ねえちゃんが京都で作ってきた和菓子四等分するオレンジのバラ ˑ

  夏休み待ちながらまた弾いちゃたラジオ体操第一第二

  最終の乳歯が抜けてもう私子供になんか戻れなくなる

  登山靴にわこって太く書いた時頂上に立つ決心をする ˑ

 梨子 14-15(中2-3)

  テストの日覚えたことを一滴もこぼさないよう水平に歩く

  なっちゃんの髪をゆらして夏の風3年5組をななめに通る ˑ

  妹が夏の夕ぐれひそひそと親孝行の話持ちかける

  どこまでものんびり続く秋の空地球は楕円形かもしれない ˑ

  私たち風に吹かれて生きている急いで大人にならないように *

  泣き方は体が覚えていたけれど泣きやみ方を思い出せない

  豪快にママが笑っているようないなり寿し三つ模試の弁当

  とぼとぼと前を歩いている君に気づかないふりという選択肢 ˑ

 

 

2014年

 わこ 12-13(小6-中1)

  いつしても何度やっても幸せだ制服のリボン結ぶ練習 *

  「ほっといて」と急に言い出すねえちゃんに「ほっとくよ」って返事するママ *

  内ばきをスポッと脱いだ瞬間にもう思い出になる小学校 *

  お出かけはいつも制服でも私気付いてしまったねえちゃんの恋 ˑ

  サーティーン少し長めに言ってみる銀色の楽器みたいでステキ

  今日からは夏服風が吹くたびにゆれて楽しいプリーツスカート *

  恋までもゆずってしまうねえちゃんにあきれる私とママとひぐらし

  「ウソも方便」と笑ったママなのに私の小さなウソを許さない

  「わしはウマ」「わしらはヒツジ」おじいちゃんたちが明るく揺れてる市電

  期末テスト終わったとたん友達と数えきれない約束をする *

 梨子 15-16(中3-高1)

  受験生鏡も見るしとてつもない空想もする恋だってする *

  高校に行ったらどんな髪にする未来のことだけ話そう二月 *

  人間は迷って悩んでしぼむけどときめいてまた少しふくらむ *

  人間はやっぱり水でできているだからぽとりと眠りに落ちる ˑ

  真っ先に回転木馬 受験終え半日子どもに戻る予定だ ˑ

  掲示板私の受験番号が私を見つけて飛びついてくる

  いろんなこと卒業します新しい制服という羽をもらって *

  晴れやかな気持できたての友達と桜の下で交わすおはよう *

  妹がそれは恋だと断言しゆっくり回り始める風車 ˑ

  テスト明けもう夏だねと言いながらクラスメイトが羽化を始める ˑ

  人間の言葉をしゃべる猫かもね風かもね桃かもね妹 *

  ミルクティー見ているだけで眠くなる万有引力強まる秋は

  グラノーラジャグジャグ食べて学校へ急ぐ誤解の岩をどかしに *

 

 

2015年

 わこ 13 -14(中1-2)

  新しいブーツが雪をよろこんで子犬のようにパフパフ駆ける *

  手袋を忘れた私友達がつないでくれた右手左手 *

  私たち先輩だねと盛り上がる入学式の受付係

  ママとパパ私でガヤガヤねえちゃんの不器用すぎる恋を見守る

  恋してるねえちゃんはまるで熱帯魚うろこキラキラ光らせ泳ぐ *

  偶然を待っていたのに図書室でまさか日焼けした君に会うとは *

  大粒のぶどうを食べている時にヒミツを一つ話してしまう

  話せた日すれ違った日見かけた日なんでもなかった十四歳の日々

 梨子 16-17(高1-2)

  山手線乗り間違えてだんだんと暮れてゆく東京を見ている

  あこがれる「特筆すべき」という言葉高二の日々のどこに使おう ˑ

  決断ができない私にグッドバイ二十センチの髪と一緒に *

  高いシのフラットがうまく歌えたら伝えようって決めてる気持ち *

  ウソつきは大人の始まります寿しの淡いピンクが意地悪を言う

  鈍感なクジラのようで敏感な夕日のような君といる夏 *

  風かなと思うくらいにさり気なく私の秋にだれかがさわる *

  あの人が優しい顔で立っている風にゆれてる麦の穂みたいに

  マフラーも手袋も編めないけれどあったかい冬約束します *

 

 

2016年

 わこ 14-15(中2-3)

  ねえちゃんが鏡の中のねえちゃんに少し笑って出かけていった

  新しいクラスが発表される朝春をかき分け学校に行く ˑ

  受験生だけど桜を見てきます春を感じてから英単語 *

  志望校調査用紙を見つめてる私とママと猫と電球 ˑ

  セミの声ななめに浴びて歩いてく進路懇談会は二時から

  眠る前またうれしくて思い出す「お嬢さま」って呼ばれたランチ ˑ

  半袖のセーラー服はもう今日でおしまいさよなら中3の夏

  約束の時間より早く帰ります心配性の母の子として *

  ねえちゃんにだけ話すことママたちも知っていいこと決めて「ただいま」 ˑ

 梨子 17-18(高2-3)

  今のまま進展も発展もせず冬をすごすという選択肢 *

  妹はぬいぐるみにも優しくてぬいぐるみも妹に優しい ˑ

  カフェオレの氷が全部溶けたって聞きたい君の未来の話 ˑ

  眠いのは十八歳の特徴かそれとも雲を見ていたせいか *

  靴ずれの春の記憶がよみがえる恋に恋していたんだ私 *

  呼び捨てかくん付けか迷っているうちにすれ違ってく夕立の駅 ˑ

  宿題が母が未来が目覚ましが順に私をゆさぶり起こす *

  体育祭子供みたいに日焼けしたほんとの大人になっちゃう前に *

  ゆるすこと教えてくれた夏でした晴れのち雷雨夕方に虹 *

 

 

2017年

 わこ 15-16(中3-高1)

  白い息吐いて笑顔で手を振ってねえちゃんセンター試験へ向かう

  中庭のロープが解かれ心臓と一緒にさがす受験番号

  制服が届いて夜のファッションショー家のすみからすみまで歩く

  今ここで泣いちゃだめって思う時人って少しずつ強くなる

  ねえちゃんが初めてもらったバイト代私の貝のイヤリングになる

  ねえちゃんは鏡の中のねえちゃんと目が合うたびに律義に笑う *

  ねえちゃんがファッション雑誌を買ってきて家族全員驚いた秋 *

 梨子 18-19(高3-大1)

  妹が作ってくれた弁当を持って出かけるセンター試験 ˑ

  試される私じゃなくて今までの私を試すセンター試験

  赤本と卒業式の案内がリュックで隣り合ってる二月

  これからはドライに生きると妹が言い出し花火がドーンと上がる

  妹がアルバイト先へやって来てうなずいている保護者みたいに ˑ

 

 

2018年

 わこ 16-17(高1-2)

  勝負服勝負笑顔で初もうで駅のミラーに今年の私 ˑ

  新しい楽譜を買った春の日は靴も歩幅も私も音符 ˑ

  門限を破ってしまった夏の日の波の音だんだん重くなる ˑ

 梨子 19-20(大1-2)

  男泣きすぐする君と過ごすうち泣かない女に磨きがかかる ˑ

  偶然を待てる妹必然を生きる私はあさって二十歳 ˑ

 

 

2019年

 わこ 17-18(高2-3)

  6センチ切って下さい6カ月の恋にサヨナラする美容院 ˑ

  模擬試験第6志望まで書いて私が私じゃなくなっていく

  甘えるな歯を食いしばれ上を向け模試の弁当きんぴらごぼう ˑ

 梨子 20-21(大2-3)

  バーという場所に右足踏み入れて大人の顔をして左足 ˑ

  美容室鏡の中にふられたてほやほやの私きちんと笑う ˑ

  ギョウザ食べどうして恋が終わったか考えている普通の顔で

 

 

2020年

 わこ 18-19(高3-大1)

  透きとおるセンター試験の朝の空名前を付けたくなるような青

 梨子 21-22(大3-4)

  「10年後の理想のあなた」たずねられ言葉をさがす一次面接

 

 

2021年

 わこ 19-20

  目覚めれば私は二十歳ゆっくりと十代最後の夢を見ようか

  姉が来て母が来て父までも来て私の迷い聞いては帰る

 梨子 22-23

  ペンじゃなくシャーペンで書く8月の予定は未定に近い約束

  こんなにも甘くみずみずしい梨に私は一字もらって生きる

 

 

2022年

 わこ 20-21

  魔法なんてないし奇跡もおこらないでも運命はちょっと感じる

 梨子 23-24

  駅前の青いネオンが雪に揺れタロット占い10分1000円

  投げっぷり倒しっぷりがすごくって母じゃない母を知るボーリング

  妹と買う色違いのワンピースこうしておばあちゃんになりたい

 

 

2023年

 わこ 21-22

  姉と並びパックしながら話してる恋のこと親が年をとること

  する予定まったくなかったケンカしてポカンと空いた春の一日

  姉ったら恋の話もオープンでとうとう父は出かけていった

  泣くような事もないけどこのままじゃ泣かない人になっちゃいそうだ

  あじさいの色のTシャツ着て行けばドラッグストアもお出掛けになる

 梨子 24-25

  ごほうびがプリンだなんて母の中の私はいったい何歳のまま

  へこんでる私に母はなつかしいネコの小皿でサクランボ出す

  「わっ」と言う訪問先のお客様私の肩に大きなバッタ

  折れ時がわからなくなって長引いた優しい月が見ているケンカ

 

 

2024年

 わこ 22-23

  姉が買うお守りはなんと縁結びはっと息を飲む母父私

  一斉に楽譜をめくるコーラス隊春がそこからパッと始まる

 梨子 25-26

  初もうで妹の願い多いのか大きいのかなかなか動かない

  Bランチ社食のメニューはちらし寿しはにかむようなミニ桜もち

  酔っぱらい電話をかけてくる人と宇宙旅行の約束をする

 

   無印は朝日歌壇入選作で歌集に収録されているうた        .

ˑ印は朝日歌壇入選外で歌集に収録されているうた         .

 * 印は朝日歌壇入選作で歌集にに収録されていないうた       .

 (「ソナタ-」収録は'20年の作まで。'21年以降はすべて朝日入選歌)